今回は、部下が我の強い性格で、「組織として期待している仕事をしない」「自分のしたい仕事だけする」。こういった管理職者の悩みに対して、行動科学や心理学の観点から取るべき対応を具体的に解説します。
管理職者のAさんのケース
「こちらがやってほしいことは、そういうことじゃないんだよな~」
Bさんは、私が課長を務める部署で働くようになって2年近くになる。
彼は専門的な知識も豊富で、自分で判断して業務を進めることに長けており、周囲のチームメンバーからも「頭がいい人、仕事ができる人」と認識されているようだ。
私も言葉を交わす中で、理解力や判断力がある知的な人だな、という印象をもっている。
ただ一点とても気になっていることがあった。
それは、こちらが依頼した業務のうち、期待している形でその成果が上がってこないことがままあることだ。
これはついこの間の出来事だ。
次週の会議のために、あらかじめ必要な情報の整理をBさんにお願いした。
しかし会議前日に上がってきた資料を確認すると、こちらの依頼していたものの半分もできていない。
本人にそのことを確認すると、「私はこちらの内容で十分だと思ったので」とのことだった。
しかしこの資料では十分な議論ができないと考え、反映されていない内容も必要である理由を伝えた上で、急ぎで追加の情報も入れて欲しいとお願いした。
不服そうな顔をしながらも、Bさんは資料の修正を受けてくれた。
しかし会議当日の朝に出てきた資料をみると、若干の改善はあるものの、やはり私が求めているものではなかった。
理由を聞くと「時間がなかったため」との返答だった。
例えばこんなことがBさんとのやり取りでは多く発生する。
本人の能力をもってすればまちがいなくできる業務でも、自分の考えに合うこと以外はやらない。
理解しようとしない、もしくは完成度の低いものや依頼していない内容のものを進めてしまう。
無理難題や理不尽なお願いをしているつもりはないのだが、彼との間ではこのようなことが頻発する。
どうすればいいのだろうか・・。
期待している仕事を部下がしない。その原因は我の強さ
期待している仕事を部下がしない。そのようなことでお悩みの管理職者の方は多いかもしれません。
管理職者にはチーム全体で達成したいゴールを見据え、そこから個々人にどのような仕事をしてほしいといった期待があるはずです。それは目標を管理する面談など様々な場面で本人には伝えていると思います。
それにも関わらず、「その仕事をやる意味が分かりません。」と自分の考えを譲らず、当人はこちらが期待している内容の仕事をしてくれない。そのような状況が今回のテーマです。
行動科学の知見から考えると、その原因として我の強い性格、すなわち私的自己意識が非常に高いことが考えられます。

我が強いとはどういうことか?行動科学的に解説
「我が強い」「他の人の意見を聞かない」といった特徴は、心理学では私的自己意識が高いと表現されます。
私的自己意識とは、自分の感情や考え、思いなどに注意・意識を向けやすい性格傾向のことです。
この性格傾向が高いと自分の考えや価値観を大事にすることにつながるため、周りに流されず自分を強く持つことができます。
また、「他人は他人であり、自分は自分である」と考え、自律的に動く傾向の高さとも関連すると言われています。このように、私的自己意識の高さは、状況によっては必ずしも悪い傾向ではありません。
ただし、それが強すぎるあまり組織としての動きを妨げる場合は、管理職者として働きかけたほうがよいでしょう。以下、その具体的な進め方について考えてみましょう。
上司はこうしたらよい。対応法と具体的な行動例を紹介
我の強い部下への対応は、次の3ステップで考えてみましょう。

①自分の性格の特徴について考えてもらう
性格傾向を調整するための第一歩は、自身の特徴を自覚してもらうことです。
ただストレートに伝えてしまうと、部下は批判されていると感じたり、「上司だけがそう思っているだけだ」などと考えてしまうため、自分の性格に目を向けることにはつながりにくいでしょう。
そこでおすすめなのが、職場でのちょっとした雑談の一環として自分の思う自身の性格の特徴と、他者から見た相手の性格の特徴を言い合うことです。
まずは上司が率先して「自分は他の人をつい気にしてしまうなぁ。〇〇さんはどう思う?」など自分-他人を軸にした特徴を言うところから始めると会話が始めやすいでしょう。このとき、腹心とも言える部下に一枚かんでもらい、「私はあまり人の意見に流されないほうですね。課長も私と同じように他の人にハッキリと言うほうだと思っていました。」など、同じように自分-他人を軸にした特徴を言ってもらいましょう。
そうすると、「自分をしっかり持っている」「自分の考えをはっきり言える」、また「こちらの気持ちを察してくれる」「思いやりがある」など、自分-他人を軸にした特徴がメンバーから出てきやすくなります。
そのなかで、部下に「自分の意見を出しすぎてしまうところがあるな」「他人は他人、自分は自分という考えを前面に出し過ぎてしまっていたかも」など、自分の性格の特徴に気づいてもらえるとよいでしょう。
②他の人の目線に立って考えさせることで、他者視点を養ってもらう
自分の性格に気づいてもらえたら、次はそんな自分のことを職場の人がどう感じるかを理解できるように、他者の視点を意識してもらいましょう。そうすると、自分の意見だけではなく他者の意見もバランスよく考えられるようになります。
他者視点の考え方を持つためのコツは、他の人の視点に立って「自分のような人」について考えてもらうことです。例えば、「他人の意見を聞かず、自分の意見を押し通している」人に、そんな人が自分の同僚にいたら、どのように思うか考えてもらうのも、ひとつの手です。
ここで大切なのは、部下自身の問題と気づかせないことです。他人の問題だから、他者視点で考えることができるのです。
そうやって他者視点を少しずつ身に付けてもらいましょう。また、他の人だったらどうやるかを考えさせてみることも、考え方のバランスを取る一助になります。
③部下との対話を通して特定の行動の変容を促す
部下が自分の性格について気づき、周囲がそれをどのようにとらえているかを把握できるようになってきたら、最後は対話を通して部下の行動を変えていく支援をしてみましょう。
部下の方の我の強さの良い部分は尊重しながらも、何かを依頼される業務などにおいては、相手の話を聞き、想像力を働かせて、求められている対応を適切に行えるように、対話を進めていきます。
このとき、本人の性格などを否定するのではなく、特定の行動についてのみ修正を求めるような伝え方を意識してみてください。
例えば、「こちらの意見を聞かず自分の考えだけで進めるようなやり方はやめてください」といった漠然とした言い方ではなく、「○○の資料を作成するときには、自分でその要否は判断せずにこちらから指定した要件を全て満たすように作成していただけますか?」といった形でできるだけ具体的に特定の行動の修正を依頼するようにすると、本人を不必要に傷つけずに、特定の行動を修正することが可能です。
まとめ

今回は、我の強い性格のために期待している仕事をしてくれない部下への対応について、以下の3つのステップに分けてご紹介しました。これらはいずれも本人とのコミュニケーションの機会があってこそ実践できるものです。それ自体が少ない場合は、まずは定期的に雑談をする習慣を作るところから始めてもよいでしょう。
- 自分の性格の特徴について考えてもらう
- 他の人の目線に立って考えさせることで、他者視点を養ってもらう。
- 部下との対話を通して特定の行動の変容を促す。