対人恐怖とは

対人恐怖とは、他者に注目されるような状況で強い恥ずかしさや困惑などを感じたり、他者から悪く思われるのではないかと心配になり、対人関係を避けようとすることです。
恥ずかしがり屋や内気といった一般的な性格から、強い恐怖や不安から対人場面を避けてしまうといった日常生活に支障をもたらすレベルまで含まれます。

対人恐怖の歴史

対人恐怖は日本で生まれた概念です。日本の精神科医である森田が1932年に神経質(ささいな出来事でもストレスを強く感じてしまう状態)のひとつとして述べたのが始まりです。
対人場面において赤面恐怖(自分の顔が赤らんでいないかという不安)、視線恐怖(相手と目を合わせると過度に緊張してしまう)、表情恐怖(場にそぐわない変な表情をしていないかという不安)、醜形恐怖(自分の顔や姿が醜いと思われないかという不安)、自己臭恐怖(自分が臭いと思われないかという不安)など様々な恐怖や不安があります。
これらは他者からのネガティブな評価を気にする点で共通するということから、集約した対人恐怖症という概念が生まれました。

対人恐怖は日本で生まれた概念ということから、日本文化の特徴を反映した議論が活発に行われています。例えば、提唱者である森田は対人恐怖について「恥ずかしがること自体を情けないことだと考え、恥ずかしがらないように努力する意地っ張りだ」と述べており、「恥の病理」だと考えました。この考えはアメリカの文化人類学者ベネディクト(Benedict, R.)が『菊と刀』で欧米は罪の文化、日本は恥の文化と述べたことと関連しています。

類似概念との比較

対人恐怖と同様に社交場面で恐怖や不安を抱くという状態として、社交不安障害が挙げられます。定義の上では、社交不安障害は人前でプレゼンする、誰かと会話するなど特定の社交場面における不安や恐怖が中核となります。
それに対して対人恐怖では個別の状況や特定の人物というより人間全般に対する恐怖や不安が中核となります。しかし、両者は悩みや症状、対応方法などで重なる部分が多いため、必ずしも区別できるものではありません。

文責:胡 綾及 (クリニカルリサーチ) 心理学博士
大学院でパーソナリティ心理学を専門として博士号を取得後、当社参画
広島大学大学院博士後期課程卒
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