思考抑制の皮肉過程理論(シロクマ効果)とは
思考抑制とは、特定の事柄を考えないようにするという意識的な努力のことです。そして、思考抑制の皮肉過程理論とは、特定の事柄を考えないようにしようとするほど、その考えがかえって頭に浮かびやすくなる現象を意味します。
事前に「シロクマのことだけは絶対に考えないでください」と言われてシロクマの映像を見せられた条件群が、1年後ほかの群に比べて最もシロクマのことを考えていた、という実験から得られた知見のため、「シロクマ効果」と呼ばれることもあります。
例えば、野球で「三振以外ならどんな結果でも得点が入る。三振さえしなければよい」という場面だと、かえって三振してしまうということがあります。
そのため、思考分野だけではなく運動分野でも思考抑制の皮肉過程理論をテーマとした研究が行われています。
思考抑制の皮肉過程理論の重要性
思考抑制の皮肉過程理論を理解することは、精神的健康を整えるうえでも重要です。
例えば、大学受験で非常に不安になっている学生がいるとします。
「いつも通りにしていたら大丈夫だから、落ちるなんて考えなくていいんだよ」と励ましたくなるかもしれません。しかしこのように伝えると、かえって「落ちる」ことが頭に浮かんでしまいます。
カウンセリングでは相談者の想いを受け止めることが大切と言われますが、思考抑制の皮肉過程理論からも同じだと考えられます。
「落ちるかもって心配なんだね」と返すほうが、「落ちる」ことによる不安がいたずらに掻き立てられないでしょう。
類似した概念との違い
思考抑制や、思考抑制の皮肉過程理論と類似した概念として、以下が挙げられます。
思考抑制と抑圧
抑圧は、望ましくない考えを意識の外に押し出す無意識的なプロセスです。例えば、過去の辛い記憶を思い出さないよう、心の奥底に押し込めてなかったことにすることです。思考抑制と抑圧は、意識的であるか無意識的であるかという点で大きく異なります。
侵入的な考えと、思考抑制の皮肉過程理論
外出するときに玄関から出て少し歩いてから「鍵を閉めたかな」と少し不安になることがあります。このような自分の意思に関係なく繰り返し浮かぶ考えや言葉などのうち、不快感を伴うものは侵入思考と呼ばれます。考抑制の皮肉過程理論は意識的な抑制の努力が原因となるのに対し、侵入思考は特定の出来事に対して自動的に発生するというように、両者はメカニズムが異なります。
文責:胡 綾及 (クリニカルリサーチ) 心理学博士
大学院でパーソナリティ心理学を専門として博士号を取得後、当社参画
広島大学大学院博士後期課程卒