無気力とは
無気力の「apathy」は、語源となる古代ギリシャ語から考えると、「a(否定)」と「patos(激しい感情)」と「ia(こと)」から構成されています。
つまり、無気力とは「激しい感情のないこと」を意味します。
しかし日本の心理学研究では、無気力は「物事に対して意欲が湧かない状態」などと定義されることが多いです。
つまり、無気力には感情面と行動面の2つの視点があると言えます。
感情としての無気力と、行動としての無気力
感情としての無気力は、うつ病における意欲の低下した状態と言えるでしょう。
これは、学業やアルバイトといったしなければならないことだけではなく、食事や買い物、入浴など日常生活を営むうえで必要な行動全般への意欲の低下を意味します。
行動としての無気力は、ハーバード大学保健センターの精神科医ウォルターズ(Walters, P. A. J.)の研究が出発点です。
勉学にのみ意欲が湧かない男子学生たちの精神医学診療ケースから、大学生の無気力をスチューデント・アパシーと名付けました。
その後スチューデント・アパシーの概念は日本に展開し、当初指摘されていたような病理的なものではなく、大学生ならだれにでも起こりえるものとして認識が改められました。男子大学生に限らず女子学生も無気力になったり、学業だけではなく日常生活の様々な場面で意欲が低下するなど、その定義は広がりを見せています。
抑うつが行動としての無気力を引き起こすことを実証した研究
無気力は、繰り返し辛い経験にさらされることによって生じることを実証したのが、ポジティブ心理学の創始者セリグマン(Seligman, M. E. P.)とメイヤー(Maier, S.F.)の学習性無力感の実験です。
彼らは犬を使った実験で、無気力のメカニズムを明らかにしました。
彼らの実験では、柵を飛び越えた時に電気ショックから逃れられる条件と、柵を飛び越えても何をしても電気ショックを逃れられないという条件を設けました。
電気ショックが流れるたび、前者の条件の犬は柵を飛び越えて電気ショックを逃れました。
しかし後者の条件の犬は、途中から柵を飛び越えた時に電気ショックを逃れられる条件に変更しても、身動きせず犬は電気ショックを受け続けました。
このように、抑うつ状態に繰り返し陥ることで無気力状態が形成されていたことを示す実験があったのです。
文責:胡 綾及 (クリニカルリサーチ) 心理学博士
大学院でパーソナリティ心理学を専門として博士号を取得後、当社参画
広島大学大学院博士後期課程卒