自律訓練法とは
自律訓練法とは、自己暗示を通して心や体をリラックスさせる心理的な技法です。「右手が重い」「左手が重い」「楽に呼吸ができている」などの特定のフレーズをゆっくり繰り返し、自分自身に催眠をかけてリラックスを促します。
自律訓練法の特徴として、心理面だけではなく生理面が重視されている点が挙げられます。何回も練習することによって、体の感覚に集中することを通して「あるがまま」を受け入れる態度を作っていきます。
自律訓練法の歴史
自律訓練法が開発される経緯は、催眠研究とかかわっています。現代の日本では催眠というと超常現象のひとつと見なされることもありますが、18世紀後半のヨーロッパでは心の悩みを持つ人たちへの心理療法として行われていました。当時は心の奥底に押し込まれた感情や記憶を解き放つ手法として催眠が用いられていたのです。
自律訓練法は、ドイツの大脳生理学者フォクト(Vogt, O.)博士の臨床的催眠研究を基盤にして、1932年にドイツの精神科医シュルツ(Schultz, J. H.)博士によって体系化されました。
自律訓練法が日本へ入ってきたのは、1950年代です。1960年代になると九州大学心療内科で心身症(身体には問題がないにも関わらず、ストレスのために身体症状が出る疾患)をはじめ、心身の不調を訴える患者さんの治療法として自律訓練法が用いられるようになりました。その後、全国の大学病院で積極的に用いられるようになり、今日では病院臨床だけではなくスポーツや企業領域など広く用いられるようになりました。
自律訓練法の効果と注意点
自律訓練法を行うことで、緊張や落ち込みといったネガティブな感情を和らげるだけではなく、エネルギーも高められる効果があると報告されています。とはいえ、催眠によって自分の意識状態をぼんやりとさせるため、自律訓練法を行った後は意識を目覚めさせなければなりません。そのため、公認心理師などの専門家の指導の元で行うほうがよいでしょう。
また、被害妄想(他者が自分に害を加えると思い込んでいる)や罪業妄想(自分の行動で他者が被害を被ったと思い込んでいる)など妄想症状がある場合、症状を悪化させる恐れがあり注意が必要と言われています。
文責:胡 綾及 (クリニカルリサーチ) 心理学博士
大学院でパーソナリティ心理学を専門として博士号を取得後、当社参画
広島大学大学院博士後期課程卒