ストレスチェック制度とは何か?義務化された制度の概要と適正な運用方法を解説

人事の基礎知識


次のようなことで困っていませんか?

  • 精神的に不調になる従業員がいる
  • ストレスチェックが義務化されたが、きちんと運用できているのか不安
    • 職場の従業員が増えてストレスチェックの実施が義務になるが、正直手が回らない

この記事では「ストレスチェックとは?」といった基本的なことから、実際の運用における注意点などを解説しています。

ストレスチェックの義務化とは

はじめにストレスチェックとは、従業員が「ストレスに関する質問票」に沿って就労時の心理状況などを回答するものです。2015年12月よりストレスチェックが義務化されました。

義務化された目的と背景

ストレスチェックが義務化されたのは、うつ状態などメンタル面での不調を未然に防止するという目的があります。事業者を罰することでなく、あくまでも労働者(従業員)を守ることが目的です。
また、ストレスチェックが導入された背景には精神障害に関する労働災害の件数が増えていることがあります。

表1 精神障害に関する労働災害の請求件数と自殺者数(※1)

年度労災請求件数(件)自殺件数(件、内数)備考
平成211,136未発表請求件数:前年度より増加
平成221,181請求件数:2年連続増加
平成231,272請求件数:3年連続増加
平成241,257
平成251,409請求件数:当時過去最多
平成261,456213
平成271,515199
平成281,586198
平成291,732221
平成301,820200
令和12,060202
令和22,051155
令和32,346171請求件数:当時過去最多
(※1)厚生労働省「過労死等の労災補償状況」(各年度)より抜粋 令和3年度はこちら

平成21年度から3年連続で請求件数が増えたことが、ストレスチェック義務化の背景となったようです。義務化された後も請求件数は増え続けていることから、制度の義務化は時代背景によるもの、と捉えることもできるでしょう。

何をすることが義務付けられているのか?

何が義務化されているのか、一つずつ解説いたします。

対象の事業場

 ストレスチェックが義務化されているのは従業員数が50人以上の事業場です。50人未満の場合は努力義務となっています。 

実施頻度

 実施頻度は年1回です。制度義務化が2015年12月1日だったため初回の実施期限が2016年11月30日でしたが、その後は状況に応じて1年ごとに1回実施する義務があります。

調査内容

調査内容にも決まりがあります。次の3領域を含む内容にする必要があります。

  1.  仕事でのストレス因子(仕事が多い、仕事の質が悪い、裁量がないなど)
  2.  心身のストレス反応(活気がない、イライラする、落ち着かないなど)
  3.  周囲の支援(上司や同僚、家族とコミュニケーションを十分に取れるかなど)

労働基準監督署への報告

ストレスチェックの結果を労働基準監督署に報告する義務があります。ただし、ストレスチェックの実施が努力義務の事業場では、報告も努力義務です。

ストレスチェック制度の対象者と実施者

ストレスチェックには対象者(受ける人)と実施者がいます。 

対象者となるのは長期雇用の従業員

ストレスチェックの対象となるのは長期雇用の従業員です。正社員はもちろんのこと、契約期間が1年以上の契約社員、パート社員、アルバイト社員も対象です。
また、1週間の労働時間が正社員の3/4以上の場合も対象になります。正社員だけではないことに注意が必要です。

対象者とならないのは?

上記の条件に該当しない人に加えて、休職中の従業員(産前産後休暇、育児休暇、介護休暇など)及び入社前の新入社員は対象外です。休職中の従業員は復職後、新入社員は入社後にストレスチェックを行うようにしましょう。

実施者となるのは産業医など

ストレスチェックを実施できるのは次のうちいずれかの人です。

  1.  医師
  2.  保健師
  3.  厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士など

産業医と契約している場合は産業医を実施者にできます。また、社内に該当者がいない場合は外部委託できるサービスも利用可能です。

ストレスチェックの方法と流れ

ストレスチェックを行うには実施前(導入前)、実施の二つのステップがあります。

実施前(導入前)

これからストレスチェック制度を開始する、という事業場は次の項目を実施する必要があります。

  1.  従業員に対してストレスチェックを実施する旨を宣言
  2.  事業場の衛生委員会にてストレスチェックの運用方法を検討
  3.  2.で決まったことを社内規定に追記し(明文化)、従業員に周知

実施

ストレスチェックは従業員に、質問票に沿って就業時の状況を記入してもらいます。(選択式)(※2)

  (※2)参考:厚生労働省「ストレスチェック実施プログラム」

 

ストレスチェックが終わったら?

ストレスチェックが終わっても高ストレス者への対応や労働基準監督署への報告など、やらなければいけないことは多々あります。

  1.  高ストレスと判断できる従業員に対して、医師による面談指導の案内
  2.  1.のうち申し出があった従業員に対する面談指導
  3.  面談指導を行った医師からの意見聴取
  4.  必要に応じて従業員の就業環境の改善などの対策(労働時間の短縮、配置転換など)
  5.  結果の集計・分析(ストレスチェックの実施義務がある事業場でも、集計・分析は努力義務)
  6.  労働基準監督署への報告
  7.  結果の保存(5年間)

 

ストレスチェックを怠るとどうなる?

ストレスチェックは実施をしなくても特に罰則はありません。(ストレスチェックは罰則のない義務)

ただし、労働基準監督署への報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には最大50万円の罰則があります。(※3)

(※3)労働安全衛生法120条5項より抜粋

実施の際の注意点

ストレスチェック実施の際には、次のようなことに注意する必要があります。

ストレスチェックの結果の管理

ストレスチェックの結果は個人情報です。紙で保存する場合は使用するキャビネットなどの鍵を、データで保存する場合はサーバーやフォルダのパスワードを実施者が管理する必要があります。
ストレスチェックの結果に関わる人(実施者や実施事務従事者など)には守秘義務が課せられます。違反すると、処罰の対象となります。(※4)

(※4)「ストレスチェック及び面接指導の実施者の守秘義務について」より抜粋

ストレスチェックの結果により従業員を不当に扱わない

ストレスチェックの結果を理由に、強制的に降格を命じたり配置転換を命じたりすることはできません。
状況を考慮して配置転換が必要な場合でも、必ず本人の同意が必要です。もちろん正当な理由なく解雇もできませんので注意してください。

面接指導の強制の禁止、及びストレスチェックの結果の強制的な開示の禁止

ストレスチェックの結果、高ストレス状態であることがわかっても面接指導をするには本人の申し出が必要です。面談指導を拒否しても、事業者が強制することはできません。
また、ストレスチェックの結果を事業者に開示するには従業員の同意が必要です。情報開示を拒否しても、強制的に開示させることはできませんので注意してください。

ストレスチェックの費用と助成金

ストレスチェックの実施には「ストレスチェック補助金」など、国からの助成金があります。
ただし、対象はストレスチェックが努力義務となっている50人未満の事業者のみです。

表2.ストレスチェックに関する助成金(※5)

助成内容助成額(上限額)
ストレスチェックの実施費用従業員1人につき1回500円(税込)
ストレスチェックに係る医師の活動費用1事業場あたり1回につき21,500円(税込)ただし、上限は3回
(※5)独立行政法人労働者健康安全機構「令和3年度版『ストレスチェック』実施促進のための助成金の手引」より抜粋

ストレスチェックを活用して働きやすい労働環境を作る

「ストレスチェックは義務(努力義務)だからやる」という気持ちはもちろん大切ですが、その目的は従業員のメンタルヘルスを守ることです。
自社の従業員にいつまでも元気に働いてもらえるように、ぜひストレスチェックを適正に実施してください。

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