「高ストレス者」面談~就業措置の対応方法&事例3選

人事の基礎知識

高ストレス判定者への「医師面接とは?」

ストレスチェックによって「高ストレス者」と判定された労働者のうち、事業者に申出があった希望者には「医師による面接指導」を実施する必要があります。
医師による面接指導とは、ストレス要因の説明やセルフケアの助言の他、必要に応じて就業上の措置を事業者に求めることができます。
就業上の措置とは、時短勤務や職種の変更を含む労働環境全般の改善を意味します。
事業者は、申出した労働者に対しての不利益取扱を一切禁止されており、医師面談を断ったりしてはいけません。
また、就業上の措置を理由として、一方的な解雇や降格などを行うことも禁止されています。

高ストレスの判断基準は2つ

厚生労働省によると、高ストレスの判断基準は下記に定められています。

次の①又は②のいずれかの要件を満たす者を高ストレス者として選定するものとする。

この場合において、具体的な選定基準は、実施者の意見及び衛生委員会等での 調査審議を踏まえて、事業者が決定するものとする。

1.調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数 の合計が高い者
2.調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数 の合計が一定以上の者であって、かつ、「職場における当該労働者の心理的な負担 の原因に関する項目」及び「職場における他の労働者による当該労働者への支援に 関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者

※引用「ストレスチェック実施マニュアル」より

1.「点数合計による選定方法」

シンプルに、ストレス項目に点数を割り振り、合計点を足し算してストレス度合いを評価する方法です。

【メリット】

点数を足すだけなので手間いらずです。
仕組み自体がシンプルなため、マニュアルや事前講習等も必要ありません。

【デメリット】

ストレス項目が全て均一評価されるため、優先すべきストレス項目が設定できません。
また、全項目の合計で算出されるので、特定の項目で大きなストレスがある労働者を見落とす可能性があります。

2.「素点換算表に基づいた評価点の合計による選定方法」

「心身のストレス反応・仕事のストレス要因・周囲のサポート」
上記3点を各設問ごとに尺度化し、各ストレス項目毎に算出する方法です。

【メリット】

各分野ごとに点数を出すため、優先して解決する課題やストレス要因を抽出できます。
評価が均一ではないため、高い精度でストレス者の判定が行える点もメリットです。

【デメリット】

素点換算表を用いて計算するので、処理の手間・時間が掛かります。
そのため、基本的には専用の分析ツールで解析し、結果を算出します。

Step1.「ストレスチェック受験・結果通知」

※厚生労働省「ストレスチェック制度 導入マニュアル」より画像引用
ストレスチェックの実施方法について、全体的な流れについてはこちらの記事をご覧ください。
>>ストレスチェック義務化の罰則とは?規則や対応手順まとめ

【実施手順に基づき受験・判定結果の通知】
ストレスチェック実施の手順を基に労働者が受験した調査書を回収、ストレス度の判定を行った上で労働者に結果を通知します。

【A.労働者が行うべきこと】
「高ストレス」の結果通知を受けた労働者は、事業者に申し出ることで「医師による面接指導」を受けられます。
(原則・申出は結果通知より1ヶ月以内に行います。)

【B.事業者が行うべきこと】
結果の通知に際して、「高ストレス」と判断された者は医師による面接指導、就業上の措置を検討する旨を予め伝えておきましょう。

Step2.「高ストレス判定の労働者から申出を確認」

【申出の確認と面接指導の準備】
結果通知後、労働者から面接希望の申し出を受付し、面接指導の準備を行います。

【A.労働者が行うべきこと】
なるべく早めに事業者へ申出を行い、希望日時を伝えて予約しましょう。
申し出る先は、事業者が設置する相談窓口等が対象となります。

【B.事業者が行うべきこと】
労働者から申出があった場合、なるべく勤務時間内に予定を調整し、面接指導をセッティングしましょう。
(※原則・申出から1ヵ月以内に面接指導は実施します。)
また、申出がなるべく行われるよう、メールや封書で勧奨を行うことも推奨されています。
面接指導の準備にあたり、下記項目を予め控えておくとスムーズです。

  1. 基礎情報(所属部署・年齢・性別など)
  2. 雇用情報(職種・役職・勤続年数・経歴・学歴)
  3. 労働環境(労働時間・年間休日数・有休消化など)

Step3.「面接指導の実施」

【面接指導の実施】
医師による面接指導を実施します。
ここでは、医師から「結果説明」「ストレス要因の説明」「聞き取り」が行われます。
結果に基づき、就業措置や対応策などが報告書・意見書として事業者に報告されます。

【A.労働者が行うべきこと】
設定された面接日に、医師(産業医)による面接指導を受けます。
面接指導や就業上の措置による不利益取扱は禁止されていますので、嘘偽りない回答を行ってください。

【B.事業者が行うべきこと】
面接指導に必要な情報を提出し、実施に協力しましょう。
(※実施に際して、医師面接の費用は会社負担することが望ましいとされています。)
助成金もありますので、気になる方はこちらもチェックしてみて下さい。

Step4.「医師からの意見聴取・報告書確認」

【高ストレス者の意見書例】

【医師からの意見聴取】
面接指導後1カ月以内に、医師からの意見聴取を行います。

【A.労働者が行うべきこと】
医師からの助言に応じて、必要であれば診断書の取得や検査等を行います。
また、主治医がいる場合は、主治医の見解として、別途意見書も取得しておきましょう。

【B.事業者が行うべきこと】
面接指導を行った医師から「就業上の措置の必要性」と「措置内容」の意見を聴取し、就業措置の検討・実施に向けて準備します。
※報告書・意見の書の詳細例は「医師が作成する報告書・意見書の様式(例)」で閲覧可能です。

【面接指導結果の保存】
面接指導の結果は、事業所で5年間保管しましょう。
記録については下記5つの必要項目で作成し、保存します。

Step5.「事業者が就業上の措置を検討・実施へ」

【意見書・報告書を基に措置を検討する】
医師からの意見や判断を踏まえ、下記区分で必要な措置を考慮する。

  1. ア 下表に基づく就業区分及びその内容に関する医師の判断
就業区分就業上の措置の内容
区分内容
通常勤務通常の勤務でよいもの
就業制限勤務に制限を加える必要のあるものメンタルヘルス不調を未然に防止するため、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少又は昼間勤務への転換等の措置を講じる。
要休業勤務を休む必要のあるもの療養等のため、休暇又は休職等により一定期間勤務させない措置を講じる。

※厚生労働省「ストレスチェック制度 導入マニュアル」より出典

  1. イ 必要に応じ、職場環境の改善に関する意見

就業上の措置事例は、こちらでも紹介しています。

【A.労働者が行うべきこと】

必要に応じて、当該事業所の産業医等が同席した上で、措置について話し合いを行ってもよい。

また、法令によって「当該労働者の意見」「労働者の十分な理解と了解」「不利益な取り扱いの防止」に努めることが明記されている点を留意しておこう。

【B.事業者が行うべきこと】

措置の決定前に、該当労働者と十分に話し合い、状況改善後の流れも提示するべきである。

また、現場監督者の理解も必要なため、プライバシーに配慮しつつ衛生・労務管理とも連携をとることが望ましい。

また、一方的な措置の解除や変更をせず、事前に産業医や関連スタッフとの話し合い・該当労働者の意見も踏まえて決定するようにしたい。

高ストレス者の「面接指導3事例と就業上措置」

各ストレス要因毎に3事例※の就業上の措置と面談例をご紹介します。
※各事例は「実施マニュアルの事例」より情報引用しております。

事例1.「業務過多による高ストレス判定(40代前半 管理職 男性)」

【事例プロフィール】

仮名Aさん
年齢40代前半
性別男性
職種エンジニア
役職管理職(マネージャー)
原因働き甲斐、仕事適性度

当事者からの聞き取り

7 月に管理職(マネジャー)に昇格。
ほぼ同時期に規模の大きなプロジェクトの担当となり、急に仕事の量が増え、責任が増大した。9 月頃から朝のしんどさを強く感じるようになり、休日も仕事のことが頭を離れな いようになった。思考力・集中力・意欲も低下し、朝出勤時の気分の落ち込みも出現した。また、夜間の中途 覚醒が増加し、日中も眠気を自覚するようになり、月曜日に会社に行くのが特につらく感じるようになった。 上司にはだいぶ前に体調不良のことについて話したが、何ら具体的には対応してもらえず、現状はそのことす ら忘れているように思うとのことである。心配した家族の勧めで最近心療内科を受診し、睡眠導入剤の処方を 受け始めた。明日再度受診する予定になっているという。

産業医の意見

産業医としては、高ストレスであり、心身の症状もあることから、今後上司も交えた面談が必要と考え、本 人の同意を得た上で就業上の配慮と、当日人事労務担当部長に就業に関する主治医からの意見書の必要性の検 討について連絡した。現時点では業務用車両の運転もあり、この段階ではできるだけ控えるように本人に伝え た。人事労務担当部長も速やかに就業上の配慮の必要性を認識し、人事労務担当部長の依頼で健診当日に産業 医から本人にこれを説明し、主治医の就業に関する意見書の提出を求めた。

就業上の措置

1.大きなプロジェクト担当から外すこと
2.マネジャー職を外すこと
3.業務車両の運転については制限すること
4.就業時間については、規則正しい睡眠を確保するために、深夜勤務は不可とし、週40時間を超える時間外休日労働時間を月20 時間以内とすること(1日当たり2時間以内)

主治医の診断は、『適応障害』で、主治医の就業に関する意見書が本人と上司を経由し、人事労務に提出さ れ、速やかに産業医面談を実施することとした。面談の結果、産業医より、上記①~③の内容とともに、残業 については深夜勤務は避け、可能な限り少なくするよう人事労務担当部長に助言した。これを踏まえ人事労務 として本人に対しては①から➃の配慮を、組織に対しては人員増加の対応をとる方針をうちだした。

その後の経過

その後、内服薬も調整され、睡眠時間及び中途覚醒も消失し、気持ちも楽になったとの本人からの声も聞くことができ、現在就業は継続し、症状は回復に向かっている。

事例2.「働き甲斐による高ストレス判定(20代前半 営業職 女性)」

【事例プロフィール】

仮名Bさん
年齢20代前半
性別女性 (未婚)
職種営業職
役職なし
原因働き甲斐、仕事の適性度、自覚的な身体負担度

当事者からの聞き取り

もともと、美容系の仕事につきたかったが、両親が反対し父親が入社を決めた。
入社前から体調不良であっ たが、さらに入社後体調悪化し、朝は起床しても身体がだるく、通勤のために電車に乗ると目が回るなどの症状が続き、その結果ほぼ毎朝遅刻していた。 本人にはこのままの状況では、体調も悪化する可能性が高く、まずは心療内科を受診し、心身の不調につい て専門医の判断を仰ぎ、また、父親に自分の本当の気持ちを話してはどうかと勧めることにした。 産業医としては、心療内科の受診をすすめ、本人も納得のうえ、受診に至った。

保健指導

産業医の指示にて保健師が保健指導を実施。 心療内科を予約したが受診まで時間があったため、その間に保健師から本人への体調確認(睡眠・食事の状 況含めた生活リズム)とその時の対処について指示した。 受診の結果、現在の体調では勤務継続は不可能であるとの主治医の診断の下、主治医より、本人に休職を勧 め、本人もこれに同意した。 休職中は家族と主治医の下、治療が継続されたが、定期的に人事労務及び本人と連絡をとり、回復状況を確 認するよう保健師に指示した。 休職の経過中、体調の回復が少し見えた状況で主治医と相談の上、生活リズム記録をつけることも効果的で あることを説明するよう保健師に指示した(生活リズム記録は主治医から勧められることもあるが今回はなか ったため)。

就業上の措置

1.休職の推奨
2.職場の環境調整

主治医の診断は、『適応障害』で精神療法及び内服加療が開始された。本人は美容系の仕事につく夢が捨てきれず、退職も考えたとのことであったが、主治医は、今は病気であり、人生を左右する重大な決定はしない ほうが望ましいと本人に伝え、主治医は一旦休職を勧めた。その間に、体調を回復させるとともに、父親ともきちんと話し合い、本人は復職する意思決定を下した。

その後の経過

その後は復職に際して、就業に関する意見書をもとに、上司の協力を得て職場の環境調整を図るとともに、 定期的な受診の継続(少量頓服の内服加療)により、復職後も休むことなく就業している。 その後受診継続はしているが、内服もなく、ほぼ通常勤務の状態まで回復している。

事例3.「心理的な負担による高ストレス判定(50代後半 製造業 男性)」

【事例プロフィール】

仮名Cさん
年齢50代後半
性別男性
職種製造業
役職プロジェクトマネージャー
原因心理的な仕事の負担(質)

当事者からの聞き取り

2 年前よりチームの業務量が徐々に増えつつあり、メンバー皆が忙しくなってきた。

もとより非常に几帳面な性格で仕事の完成度も高く、期日も少し余裕を残して仕上げていた。しかし、5 月より自分の専門分野外の 大きなプロジェクトのとりまとめの責任者となり、日々の仕事の量もかなり増えてきた。12 月に入り、睡眠が 以前よりやや浅くなるも時間としては 6 時間と変わらずであった。12 月のある朝突然、『なぜ会社に行かなけ ればならないのか』と思い、通勤時大勢の人の中を歩くのがうっとうしく、『人にぶつかりたい』『このまま飛 び込んだら楽になるかもしれない』とふと考えが頭をよぎるも、もう 1 人の冷静な自分がその感情を抑えるよ う諭したと話した。その後 10 日ほどは全くこのような感情及び行動も感じなかったとのことだった。本人に 精神科受診の必要性を説明するとともに、本人も受診を希望したため、その日にすぐ受診した。

就業上の措置

1.環境調整
2.内服開始

主治医の診断は、『適応障害』であった。主たる要因は、専門分野外である大きなプロジェクトのとりまとめの責任者であることが考えられた。本人は上司にも上記症状を自ら話していたため、就業に関する主治医の 意見書の提出にも同意した。数日後、人事労務、上司、本人と就業に関する主治医からの意見書(①環境調整 及び➁内服開始の必要性③その他、時間外勤務等には配慮の意見はなし)をもとに産業医面談を実施した。

その後の経過

内服により睡眠の質は改善し、精神的に楽になったとのことであった。昼間の眠気もなし。一方、環境調整とし ては、プロジェクトに専門家を人員補充し、一人で抱えることのないように、人的サポートと指示系統の整理 (上司からより具体的な指示)を行い、本人は回復に向かっている。

まとめ:適切な判定・正しいケアを行えるように準備しよう

今回は高ストレス者の判定から産業医面談の実施、具体的な就業上措置の例をご紹介させて頂きました。

高ストレス者の判定は適切に、そして「高ストレス者」と判定された労働者には、正しいケアを行えるようにしっかりと準備しておくことが大切です。

そのためには、円滑な面談とスムーズな対応が求められます。

初めてのストレスチェックや、社内リソースが足りていない場合は、ストレスチェックサービスの利用による「外注」という方法もございます。

ストレスチェックサービスの「Wity」では、ストレスチェック助成金の範囲内で利用可能なため、実質費用を抑えて、適切な判定や正しいケアを行うことができます。

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