企業価値を上げる人的資本経営の重要ポイントについて理解を深める!事例も紹介しながら詳しく解説

人事の基礎知識

近年、人的資本経営について注目が集まるようになりました。しかし、実際どう取り組んでいけばいいのかわからない、他の企業はどのように取り組んでいるのかなど気になるところです。この記事では人的資本経営の導入として最低限知っておいたほうがいいことを中心に解説していきます。

人的資本経営とは?

人材を資本とする考え方のもと、人の価値を最大限に引き出すことで、それが企業価値に繋がっていくという経営の在り方を指します。短期ではなく中長期的であることがポイントなので、持続可能でなければ意味がありません。

従来の経営と異なる点

人材を「資源・コスト」ではなく「資本」として捉えていることです。適材適所とはよく言いますが、そのためには資本を正確に測定する必要があります。例えば若い(賃金が安い)から〇〇の仕事をさせるといったような考えは無意味です。個人の能力やスキルを最大限に活かせることは何なのかを突き詰めます。もし将来的に担ってほしい役割があるが現時点で能力やスキルが不足していれば、育成計画を立てていきます。

欧米と日本

欧米では2018年頃から人的資本情報を一部の企業が開示し始めました。2020年になると情報開示が義務化され開示する企業数も増加します。

日本では2020年の「伊藤レポート」という人的資本経営についてのレポートを皮切りにやっと言葉が知られるようになりました。ところが情報開示は義務化されておらず、まだ遅れをとっているのが実情です。

なぜ注目されるようになったのか

人的資本経営が注目されるようになった背景には長期(終身)雇用の終焉と働き方の多様化があります。終身雇用や年功序列による人材の囲い込みは時代遅れという考えが浸透してきました。そして年齢に関係なく社員は会社と対等であるべきなのです。

働き方にも多様化の要求が強くなり、企業に合わせて人が働くよりも、人に合わせられるように企業が働きかける流れになりつつあります。例えば保育関連の人員不足によるフルタイム労働の難しさが挙げられます。この場合、時短勤務は必須になり、仕事を滞りなくできる環境や仕組みづくりを目指す必要があります。他にも女性の社会進出を妨げる要因のひとつ、男性の育休取得が極端に少ないことにも同じことが言えます。

このような背景から現代では有形資産(資源・コスト)より無形資産(資本)が重宝されるべきだという流れになったことで人的資本経営が注目されるようになりました。

人的資本経営を行うメリット

では人への投資を重要視するとどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

経験や勘ではなく定量的かつ計画的なトレーニングを行えるように企業が投資することで社員の自律的な能力開発を促すことができます。本質は個人の健康状態の改善と幸福感の向上、結束力の強化です。その結果として、日本企業の価値が上がり世界中からの資金流入が活発になることにつながります。資金が増えれば企業として再投資ができ、好循環が生まれます。人に関わるところに様々な投資を行い「生産性のアップ」「売上および利益の向上」「ブランディング力の強化」をし企業の成長という対価を得られるのです。

必要な3つの視点

①経営戦略との連動

大切なのは経営戦略を実行できる人材を確保または育成することです。素晴らしい経営戦略があっても実現できなければ意味がありません。

②経営戦略と人材戦略のギャップ

まずは目指すビジネスモデルを明確にすることと、経営戦略を実行できる人物像を描くことです。そして現在の姿(As Is)を把握し、目指すべき姿(To Be)とのギャップを埋めていきます。ギャップは数値化して定量的に測れるようにしておきます。

③企業文化としての定着度

実行に移すには組織や個人の行動変容を促すことです。そのためには経営陣が率先して企業の目指すべき姿やビジネスモデルをわかりやすくかつ粘り強く社員に発信していく必要があります。

人的資本経営を行うために必要な要素

動的な人材構成

どのような能力の人がどの部署にどの程度在籍しているかをリアルタイムに把握できる状態が望ましいと言えます。人材戦略のための最適化が随時行えるようになります。

知・経験の多様性及び革新

多種多様な経験者を受け入れていきましょう。さらには異なる経験者同士の掛け算で新たなイノベーションが生まれる可能性を秘めています。

リスキル・学び直し

全社員が常に新たな知識を学ぶこと、スキルを身につけることを意識することで、新たなビジネスモデルにも柔軟に対応していくことができます。

社員の貢献意志向上

モチベーションを保つことは意外と難しいですよね。まずは目的を明確にすることに尽きます。何のために働いているのか、誰のための企業なのかを理解してもらう必要があります。他にも職場環境を整備したり、キャリアを積み上げやすくする仕組みも意思向上に役立つでしょう。

時間や場所にとらわれない働き方

現代ではリモートワーク、フレックス、時短勤務といった働きやすさを重視した取り組みが盛んになってきています。ただし注意したいのは、例えばリモートワークの場合、業務がスムーズに行えなければストレスになります。業務の流れを見直したり、コミュニケーションツールを活用したり、これまでどおりでは通用しなくなる場面が出てきます。

具体的にどのように取り組んだらよいのか

必要な3つの視点をベースに取り組みます。これらを遂行するためにはCHRO(最高人事責任者)の設置がほぼ必須です。経営陣に入りながら人事業務を管理する役割です。適任者としては人事のプロであることはもちろん、経営の視点を持っているかどうかがポイントです。具体的には、人事視点での経営サポート、人事施策の進捗管理、社員育成方法の構築、評価制度の見直し、企業ビジョンの浸透が挙げられます。日本は欧米に比べてCHROの導入がまだ少ないですが、経営権を握るトップと同じくらい重要なポジションだとも言えます。

経営戦略と人材戦略を連動させる

経営陣に積極的にはたらきかけ、事業の課題と人材面の悩みを抽出します。それを共有し、認識の統一化を図ります。そして経営戦略どおりに実現できるための目標値を定量的にします。簡単な例を挙げると、この事業を進めていくにはこの人数が必要で、スキルもここまでできる人が必要であると言ったように数値を明確にすることです。従来の人事と異なるのは全社的ではなく事業単位で考えるということです。様々な雇用形態による人材の多様化も進んでいますから、必要ならば社員の育成に限定せず中途採用、ひいてはM&Aも視野に入れることも場合によっては検討します。

As Is-To Beギャップを把握する

数値が明確になれば目標ができますが、重要なのは現在の姿(As Is)を把握することです。そうでなければ目指すべき姿(To Be)とのギャップを測ることすらできません。また、ありがちな失敗例としてすべての事業から包括的に情報を収集しようとすると時間ばかりが取られます。したがってまずは自社にとって重要な事業から取り組むなど優先順位を決めて小さく始めましょう。加えて、経営陣はもちろんのこと、対外(たとえば投資家)にも常にリアルタイムの進捗および情報共有は必須です。

企業文化として定着させる

人それぞれ考え方ややり方が違うため数度のズレもなく取り組むのは難しいですが、目的がはっきりしていれば同じ方向を向くことは可能です。そのためには経営陣やCHROの発信力が必要です。そしてもちろんコミュニケーション能力は経営陣と社員双方に必須であり、対話ができる関係が望ましいです。さらに自社として守るべき部分と変えるべき部分を切り分けて、効果が得られた戦略は定着、そうでなかった戦略は見直しを継続的に繰り返します。

活用事例を紹介

主な代表的な企業の事例を以下に紹介しますが、どの企業も共通して言えることが社内にも社外にもオープンであることです。

旭化成

経営戦略に必要な人材をM&Aや社外投資で充足しています。職場環境、社員の活力、成長に向けた行動などの効果測定を毎年実施することで現場を常に把握しています。社員と組織の成長のために高度な専門知識をもつ「高度専門職」を位置付け、育成のための進捗をモニタリングします。この高度専門職は毎年増加傾向にあります。

アステラス製薬

人的資本経営の基礎となる経営層や事業部門と共に戦略を実現する人事を重要視し、能力本位による経営ポジションへの人材登用を積極的に行っています。また人事部門が人材データの分析に加え、事業リーダーの開発支援にも取り組んでいます。そして組織健全性のための経営陣と社員の直接的な対話の機会を常に設けています。

伊藤忠商事

戦略目標ごとに期待される成果を開示し社会への認知と信頼度の向上を目指しています。

持続的な成長と経営と連動した人材確保を掲げ、労働生産性の重視のために学生などの労働市場への積極的な発信を行っています。

人的資本経営コンソーシアムとは?

経営者が労働者、消費者、取引先、投資家などの利害関係者へ方針や実践結果について対話を通じて報告する場あるいはそれを提供する団体のことです。2022年に一橋大学CFO教育研究センター長ほか7名が発起人となり設立されました。利害関係者が企業の将来性を判断するためには対外への情報開示が必須です。どのように取り組もうとしているのか、取り組んだ結果はどうだったのかなどの情報がなければ企業の内輪のことを知ることができないからです。オブザーバーとして経済産業省と金融庁が参加します。人材はコストであるという考え方を払拭し、積極的な企業参加の下支えをしています。

人的資本経営に取り組み組織の在り方を見直す

ここまで人的資本経営について解説してきましたが、実現するためには短期的ではなく中長期的に考えることが重要です。開示された人的資本状況が一時的に堅調であったとしても、人材育成がおろそかになったり、人材戦略が経営戦略と一致していなければ、長期的に捉えるとリスクだと社会からは判断されてしまいます。成長性のある企業は既成事実をつくるための人材育成ではなく、必ずPDCAサイクルを回しています。経営戦略も日々変化していきますから、これまでの人事の在り方が大きく変化していくことでしょう。

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